Notes

東日本大震災
○東日本大震災
2011 年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波、及びその後の余震により引き起こされた大規模地震災害の呼称。2011 年3 月11 日14 時46 分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生した。宮城県栗原市で震度7 が観測されたのをはじめ、宮城県、福島県、茨城県、栃木県で震度6強など広い範囲で強い揺れを観測した。地震そのものによる被害に加えて、地震により津波、地盤の液状化現象、地盤沈下、火災、ダム決壊などが引き起こされ、各種ライフラインが寸断されるなど多岐にわたる被害が東北と関東の広大な範囲で発生した。平成26 年1 月10 日時点で、この震災による死者・行方不明者は1 万8524 人、建築物の全壊・半壊は合わせ39,984 戸が公式に確認されている。*1 

○津波被害
地震に伴って発生した津波は東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。場所によっては波高10 メートル以上、最大遡上高40.1 メートルと推定されている。その他の地域でも北海道から沖縄にかけての広い範囲で津波を観測した。なお、この震災での犠牲者のもっとも多い死因が水死とされている。*2 

○震災関連死
地震による直接的な被害ではなく、その後の避難生活での体調悪化や過労・ストレスなど間接的な原因で死亡することを指す。復興庁の公表では、東日本大震災の震災関連死数は、2013 年9 月末時点で2916 人であり、福島県民が約半数に当たる1572 人を占めている3。福島県による別のまとめでは、同県の関連死は1652 人で、直接死の1603 人を上回っている。*4 

○避難者
復興庁は避難者の数は2014 年1 月16 日現在で全国に270,306 人と発表した。同発表では、福島県から県外への避難者数は48,364 人となっている。*5 

1. 平成23 年度東北太平洋沖地震の被害状況と警察措置(広報資料) 警察庁緊急災害警備本部 2014 年1 月10 日
2. 平成23 年度版防災白書 p10 1-1-1-2-(1) 人的被害 内閣府 2011 年
3. 東日本大震災における震災関連死の死者数 復興庁、内閣府(防災担当),消防庁 2013 年12 月24 日
4. 平成23 年度東北太平洋沖地震による被害状況即報(第1124 報) 福島県災害対策本部 2014 年2 月7 日
5. 全国の避難者等の数 復興庁 2014 年1 月28 日

福島第一原子力発電所事故
○福島第一原子力発電所事故
地震と津波による被害を受けた東京電力福島第一原発では、全電源を喪失して原子炉の冷却が不能となり、国際原子力事象評価尺度(INES) においてレベル7(深刻な事故)の原子力事故に発展した。

○避難指示
2011 年3 月11 日19 時3 分、政府は原子力緊急事態宣言を発令。同日20 時50 分には、総理大臣から半径2km 以内の住人に避難指示が出され、半径3 ~ 10km 圏内の住民に対しては屋内退避が指示された。その後事故が深刻化するにつれて避難指示の範囲が拡大し、3 月12 日18 時25 分に半径20km 以内に避難指示が出され、3 月15 日11 時には半径20km から30km 圏内に屋内退避が指示された。食品の出荷・摂取制限、学校や幼稚園・保育園での屋外活動の制限も出された。

○避難指示区域の改変
4 月21 日、政府は福島第一原発から半径20km 圏内について立ち入りを禁止する警戒区域に設定した。22 日には半径20km ~30km 圏内に計画的避難区域(避難のため立ち退くことを求めた区域)及び緊急時避難準備区域(いつでも屋内退避や避難が行えるように準備をしておくことを求めた区域。同年9 月30 日解除)を設定した。12 月にはこれらの避難指示区域を見直し、(1) 2012 年3 月から数えて5 年以上戻れない帰還困難区域( 年間放射線量50 ミリシーベルト超、立ち入りが制限される)、(2) 数年での帰還をめざす居住制限区域( 同20 ミリ超~ 50 ミリ以下、住民の立ち入りは自由だが原則として宿泊できない)、(3) 早期の帰還をめざす避難指示解除準備区域( 同20ミリ以下、住民の立ち入りは自由だが原則として宿泊できない)――の3 区域に再編するとした。2013 年8 月に川俣町の区域見直しをもって、関連11 市町村全てで見直しを完了した。*1 

○出荷制限
2011 年3 月17 日、厚生労働省は原子力安全委員会が示した指標値を暫定規制値とし、これを超える食品について地方自治体に実質的な販売停止を求める通達をおこなった。*2 3 月21 日には、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)から福島県、茨城県、栃木県、群馬県の知事宛に、各県産のホウレンソウとカキナ、および福島県産の原乳について出荷を制限する指示が初めて出された。*3 現在では、2012 年4月に「より一層の安全/安心を確保するため」として同省が導入した、食物から摂取する年間線量1mSv 以下となる基準値が適用されており、*4 現在も福島を含む14 の県に出荷制限が課せられている。*5 

○風評被害
「風評被害」の定義は未だ明確には定まっていないが、関谷*6 によれば、ある社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道されることによって、本来「安全」とされるもの(食品・商品・土地・企業)を人々が危険視し、消費、観光、取引をやめることなどによって引き起こされる経済的被害のこと、とされる。東京電力福島第一原発事故以降には,いわきを含む福島県産の農産物や工業製品の出荷が大幅に落ち込んだ。その原因としては、食品や製品の放射能汚染を危惧する消費者の買い控えとそれを見込んだ流通・小売業者の仕入れ控えがあり、さらに、そうした動きが報道されることによって消費者等の不安を高めてしまうという悪循環が生じた。放射線量が国の基準を下回った生産物のみが市場に流通するようになっても福島県産品の取引は元通りには戻らず、また中には放射線量が検出限界以下のものであっても福島県産というだけで忌避される動きが一部に見られた。

1. 帰還困難区域について 内閣府原子力被災者生活支援チーム 2013 年10 月1 日
2. 放射能汚染された食品の取り扱いについて(平成23年3 月17 日厚生労働省食品安全部長通知) 厚生労働省 2013 年3 月
3. 食品の出荷制限について(福島原子力発電所事故関連)別添資料 厚生労働省 2011 年3 月21 日
4. 厚生労働省令第三十一号 厚生労働省 2012 年3 月15 日
5. 原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等 報道発表資料 厚生労働省 2014 年1 月30 日
6. 関谷直也:風評被害 そのメカニズムを考える 光文社p.12 2011 年
いわき市
○いわき市
いわき市は福島県の東南端に位置する都市。人口は327701 人*1(2014 年1 月1 日現在)。市域は東西におよそ40km、南北におよそ50km に渡り、面積換算では1231㎢。市域の西側は阿武隈高地の東縁にあたり、市境の標高500 〜700m から海岸へ向け比較的緩やかに傾斜している。東部は太平洋に面し、海岸線は60km に及ぶ。東北地方にありながら平均積雪量は東京と同程度である。

○産業
高度成長期が到来する以前は、石炭産業、漁業、林業、農業といった第一産業で発展した。新設合併によるいわき市の成立後、炭鉱閉山後を見据えて工業化を図り、現在は工業と観光が主力産業となっている。

○常磐炭田といわき市
19 世紀後半から、常磐炭田は首都圏に近い本州最大の産炭地であり、いわき市はその中心地として繁栄した。第2次大戦後のエネルギー改革の影響により炭鉱業は徐々に衰退し、多くの炭鉱が閉山へと追い込まれていった。1976 年の常磐炭礦㈱西部礦業所の閉山をもっていわき市内の採炭は終了した。*2 

○フラガール
1965 年、規模縮小を余儀なくされていた常磐炭礦は常収入源の確保と雇用創出のため、豊富な温泉水を利用して常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)を開業した。映画『フラガール』(2006 年、李相日監督)は、この施設でフラダンスショーを実現するために奮闘した人々を描いた作品である。震災直後の2011 年には第1回全国高校フラ競技大会フラガールズ甲子園が開催され、第2回目からはいわき市で実施されている。

○東日本大震災の被害
東北地方太平洋沖地震では震度6弱を観測。その後も対規模な余震・誘発地震が続き、4月11 日と12 日には市内陸部を震源とする直下型地震が発生した(最大震度はいずれも震度6弱)。津波は市内の海岸線60km 全域に到達した。一連の震災により、いわき市内の全半壊戸数は50087 戸に上り、455 名の犠牲者(直接死293 名、関連死125 名、および死亡認定を受けた行方不明者37 名を含む)を出した。*3 いわき市が市民に向けて実施したアンケートによると、震災時に避難したとの回答が55.4%(うち市内への避難13.9%、市外への避難86.1%)であり、95.4% の人が現在は自宅で生活していると回答した。*4 

○原発事故に関連する避難区域設定
3 月15 日には政府より、いわき市の一部を含む福島第一原発から30km 圏内となる地区に屋内退避指示が発令した。(市は独自の判断により福島第一原発から30km 圏内の地区の住民に自主避難を要請した。)4 月22日には同屋内退避指示が解除され、計画的避難区域と緊急時避難準備区域が指定されたが、いわき市域はいずれの区域設定にも含まれなかった。

○原発事故の影響
震災直後からインフラの崩壊により物資不足が深刻だったが、3 月13 日午前11 時に発令された屋内退避指示にいわき市の一部が含まれていたことで、いわき市内へ物資を搬送することを拒否する業者が出るなどし、物資が届かずいっそう深刻な事態となった。

○避難者の受け入れ
福島第一原発周辺の自治体から約23,000 人の避難者を受け入れている*3 ことで、人口が増加。それにより、医師不足や交通渋滞、市街地の賃貸物件の不足などが社会問題化した。また、東京電力からの賠償金の格差が避難住民といわき市民との間に感情的な摩擦を生んでいるとされる。

○モニタリング検査
市内の学校や公園、公共施設などに475か所にモニタリングポスト及びリアルタイム線量測定システムを設置し、放射性物質のモニタリング検査を行っている。10 分ごとの測定データを市のホームページなどで公開しているほか、報道機関でも紹介されている。

○安定ヨウ素剤
いわき市では独自の判断により2011 年3月18 日から、備蓄していた安定ヨウ素剤を妊婦および40歳未満の市民を対象に配布している。原発事故で放出される放射性物質の中の一種類として放射性ヨウ素があるが,ウ素は元々甲状腺に蓄積しやすい性質がある。そこで,原子力事故が発生したら早期に(放射性でない)安定ヨウ素を服用してもらい甲状腺をこれで満たしてしまうことで,放射性ヨウ素の蓄積をブロックし甲状腺被曝を低減させることを意図したものである。

○未来会議in いわき
「未来会議 in いわき」は、震災後の様々な問題が未だ続いている中で、参加者がお互いを尊重しあいながらの対話を重ねる集会。いわき在住の有志4 名が、未来のための対話の場の必要性を感じて立ち上げた。2013 年1 月に第1 回を開催し、平成24 年1 月には第6 回が開催された。いわき在住限らず県外からも参加者を募り、職業も年齢もさまざまな人々が集って活発に対話を交わす場となっている。

1. 現住人口調査結果表 いわき市経営部行政経営課 2014 年1 月1 日
2. いわき市行政経営部広報広聴課および『いわき市・東日本大震災の証言と記録』プロジェクトチーム編 いわき市・東日本大震災の証言と記録, p.9 2013 年3 月 25 日
3. いわき市災害対策本部週報 いわき市災害対策本部 2013 年2 月5 日
4. 災害時の情報提供等に関するアンケート調査結果 いわき市行政経営部広報広聴課 2013 年11 月9 日
放射性物質と向きあう基礎知識
○放射性物質
不安定な原子核を含む物質。不安定な原子核は一定の割合で崩壊して安定な原子核に変化し、その際に放射線を出す。この「放射線を出す能力」を放射能と言う。

○放射線
放射性物質から放出される粒子や電磁波。放射線が分子にあたると、分子から電子がたたき出され、電離される。
たとえば、
いわきノート
ホタルは[放射性物質]
光を出す能力を[放射能]
ホタルが出す光を[放射線]



○被曝
人が放射線を浴びること。体の外から浴びる外部被曝と体の内部から浴びる内部被曝がある。

○ベクレル
放射性物質の量を測るための単位。1 秒の間に変化する原子核の個数を示す。値が大きいほど放射能が強いことになる。

○シーベルト
被曝によって人がどれくらいダメージを受けた可能性があるかを表わす単位で記号はSvである。時間当たりで被ばく量を示したり、年間や生涯での通算で用いたりする。実用的には、ミリシーベルト(mSv) という単位を使い、外部被曝にも内部被曝にも用いる。被曝の原因や期間が違ってもシーベルトで表わした数値が同じなら、体へのダメージは同じだと考えられる。なお、シーベルトやミリシーベルトの単位で表わしている量には各組織や臓器(例えば甲状腺)毎の被ばく量を示し組織などへの影響評価に用いられる等価線量と、全身への影響に換算し発がんの確率などの推定に用いられる実効線量がある。

○空間線量率
いわゆる「放射線の強さ」で、通常は単位としてマイクロシーベルト毎時(Sv/h) を用いる。

○放射線スクリーニング検査
表面汚染測定器(表面汚染検査計)を用いて全身を検査すること。衣服や身体表面(露出している部分)が汚染する外部汚染の有無の判定と、放射性ヨウ素等の吸入による内部汚染(内部被曝)の評価のために行われる。

○除染
生活する空間において受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を取り除くこと。
監修
【東日本大震災】【いわき市】【福島第一原子力発電所事故】梅本通孝/システム情報系社会工学域講師・博士(社会工学)
【放射性物質と向きあう基礎知識】松本宏/筑波大学アイソトープ環境動態研究センター長・生命環境系教授・農業博士